【リレートーク#3  広津侑実子】 「別れ」の時季

  この「リレートーク」では、Thanks Caregivers Projectのプロジェクトメンバーが不定期に気持ちを語ります。第3回目は、特別支援学校や発達支援など子どもの支援に携わっている、東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース特任研究員の広津侑実子先生です。広津先生の透明感がある静的な文章の中に内包された、別れの動的な感触をご一緒にたどっていただけたらと思います。


 こんにちは、広津侑実子です。福祉の現場で区民の方々と会うことについて書かれていた浦田さんのお話や、オフィスやオンライン上でクライエントさんと出会うことについて書かれていた横山さんのお話に触発され、私は出会いとは反対の「別れ」について言葉にしたいと思います。 


 私は特別支援学校や発達支援など子どもの支援に携わることが多いのですが、成人の支援よりも比較的一年ごとの区切りを意識しやすいように思います。4月から3月という年度、幼稚園・保育園、小学校、中学校…といった学年の区切りを念頭に支援やかかわりは動いています。

 発達がゆっくりだったり特性があったりする子どもの支援の場合、そのような外からの枠組みを窮屈に感じたりすることもありますが、一年という区切りがあることによって、それを道標としてぐっと伸びていったり、保護者と成長を喜んだり懐かしんだりと振り返りの機会にもなります。また、次の担当者や支援機関に引き継がれる場合、ケアの場はたくさんあるということをご家族にわかっていただけるように思います。


  子ども本人にとっても、年度や学年の区切りで支援が終わったり支援者が変わったりすることに伴う「別れ」は、特別な経験をもたらしてくれるように感じます。たとえば、支援者に手紙を書いてくれる子。「そうだん、さいこう!」と一緒にお話をしてきた時間をしみじみと振り返ったり、気持ちの整理や言語化が苦手だったのに、「さみしいけど、がんばります」と複雑な思いを昇華していったり。


 言葉ではなく、行動で気持ちを伝えてくれる子どももいます。最終回に限っておもちゃの片付けに時間がかかったり、廊下を走り回ったり。「問題行動」のように見えるかもしれませんが、別れの切なさやさみしさを本人なりにおさめようとしているように感じられます。なんだか思い出作りを最後に行っているようにも思われます。


  それぞれのやり方で別れ、歩みを進めようとする姿に接する時、たくましいなぁ、すごいなぁという気持ちとちゃんと伝えてくれてありがとうという気持ちが湧いてきます。「別れ」を支援の中で大切に扱うことは当然ではあるのですが、改めて丁寧にふれたいものと感じさせられます。


  今年度はコロナ禍の影響で見通しが立ちづらく、もやもやしながらの支援が続いていました。それでも、そろそろ支援の最終回になることが増えてきています。ひとりひとりにあわせた「別れ」と出会える、その時を大切にしたいと思っています。 



(ひろつ・ゆみこ)東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース特任研究員。

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