【リレートーク#4 石島照代】改正義務標準法と「教師のバトン」騒動を考える ~できることから一歩ずつ


 こんにちは。Thanks Caregivers Project事務局統括、「Caregiverとしての教師」プロジェクト担当の石島照代です。いつも、ホームページをご覧いただきまして、ありがとうございます。今回は、3月25日に行いました、子どもの貧困と教員の労働時間の報道発表に関するお話を、「Caregiverとしての教師」プロジェクトメンバーを代表してさせていただきたいと思います。 なお、本内容は研究プロジェクト統括である勝野教授にも内諾いただいております。


  この報道発表の反響は、プロジェクトメンバーの予想をはるかに超えていきました。フェイスブックのトラックバックが900越え、そしてヤフーニュースにも取り上げられ、コメントも140以上書いていただけるなど、教員の労働環境に関する関心の高さが伝わってきました。そして調査に関する高い評価をいただけたことは、プロジェクトに関わっているメンバーには本当に励みになりました。ヤフコメ、ツイッター、はてな、フェイスブックのコメントは確認できる分はすべて拝読しています。掲載いただいた東洋経済オンラインさま、そして読者の皆様には、心から感謝しています。ありがとうございました。 


  この調査をやろうと思ったきっかけは、慶応大学教授の土井丈朗先生の2016年「教職研修」でのインタビュー記事「学校はもっとお金のことを考えよう」でした。 インタビューの要旨は、「教育は優先されるべきもの」という教育関係者が持つ前提を共有しない予算決定権者に対し,説明がトートロジカル(*同語反復、同じようなことばかり言ってるというような意味)になった結果,教育予算を獲得しにくくなっている。その状況の解決には「学校現場で,教員はこういう仕事をする必要があって,そのために教育費が必要」というように,教師による現場からのボトムアップ的な教育政策の発信も必要だという話からでした。 


  しかし、現在「教師のバトン」ツイッターで物議を醸しているように、教員の仕事が大変だという質的な話はこれまでもそれこそトートロジカルに繰り返されています。そこで、私たちはは「学校現場で,教員はこういう仕事をする必要があって,そのために教育費が必要」ということが、量的にわかりやすく伝わる大規模調査に踏み切ったというわけです。 


  ところが、教育予算は「学校現場で,教員はこういう仕事をする必要があって,そのために教育費が必要」だからエビデンスがあれば、たくさんもらえるようなナマやさしい話ではないことは、その後、筆者自身が文部科学省 国立教育政策研究所に3年間インターンに行くとイヤというほど実感することになります。 国立教育政策研究所ではそれこそ教育政策の研究をしているすばらしい研究官がたくさんいらっしゃいます。そして、官僚の皆さんともお話をさせていただくことがあり、様々なエビデンスが積み上がっていても、なかなか教育予算が付きづらいことがよーくわかりました。


  そんななか、3月31日に読売新聞による「小学校全学年を5年かけ「35人学級」に…改正義務標準法成立、上限引き下げは41年ぶり」という報道がありました。私もこの改正義務標準法成立を喜んだひとりです。 この小学校の教室の上限引き下げは、萩生田文部科学大臣も含め、大臣経験者を含むたくさんの国会議員、文部科学省関係者、現場の先生方、研究者などたくさんの方々が実現のために長い間動いていました。これは、貧困だけでなく発達障害児の対応など教室構成員の多様性がどんどん広がっていく現状を考えると、非常に必要な施策でした。関係者の皆さんのご尽力に心からの感謝を申し上げる次第です。ありがとうございました。


  この改正義務標準法成立で今後5年間で計1万3500人の教員増となりますが、それだけでは抜本的な改革にはならないことは、もちろんわかっています。でも、できることからひとつずつ、一歩ずつ進むことも大切なように思います。


 「教師のバトン」のような企画が炎上してしまったのは、現場の先生がストレートに意見を表現できる場が今までになかったためでしょう。私自身、今までも、就学援助率が全国平均を遙かに超えるある小中一貫校に三年間客員研究員としてお世話になっておりました。そのときもたくさんの教員の先生方と直接意見を交換してきました。先生方のご意見を伺いながら、自分の力のなさを申し訳なく思ったことは一度や二度ではありません。


 今回、文部科学省は批判を受け止めながらも、ICT支援員や事務補助員に関する予算など、教員が授業や生徒指導に専念できるような施策も、重ねてきています。このような施策は現場の先生方からの評判は私が聞いている限りでは好評です。そういう評判も「教師のバトン」に届けられるといいなと願っています。


  今回の「教師のバトン」炎上が、現場の先生方と国の関係者が協働できるきっかけになることを、「Caregiverとしての教師」プロジェクトメンバーは心から祈っています。 



(いしじま・てるよ)多摩大学グローバルスタディーズ学部兼任講師。専門は教員養成、教師教育。教育学修士(東京大学)。2016-2019年3月国立教育政策研究所でインターンをしていました。筆者についてのもっと詳しい話はこちらをご覧ください。



Thanks Caregivers Project

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