【リレートーク#5 尾見康博】つらいのがあたりまえなんて思わないで(前編)「部活なんだからあたりまえでしょう」はどこまで世界に通用するか?
この「リレートーク」では、Thanks Caregivers Projectのプロジェクトメンバーが不定期に気持ちを語ります。第5回目は、ご自身の在外研究時代の研究を踏まえて、日本の部活を文化心理学的観点から研究されておられる、山梨大学教育学部教授尾見康博先生にご登場いただきました。海外生活も長く、また海外のご友人もたくさんいらっしゃる尾見先生がなぜ、よりによって日本の部活(BUKATSU)を研究しようと思ったのか? そのナゾの一端と、私たち日本人の「あたりまえ」の両方が氷解するエッセイをご寄稿いただきました。「あれ? なんで、自分は部活なんてやってるんだっけー?」と考えている生徒さん&先生は必読です。
こんにちは。山梨大学教育学部で社会心理学を担当している尾見康博といいます。
私の現在の主たる研究テーマは,日本の部活を文化心理学的観点から把握するというものです。そもそものきっかけは,2009年から2011年にかけての米国での在外研究時に経験したカルチャーショックなのですが,それにくわえて,いやそれ以上に帰国後の逆カルチャーショックの方が大きいといえるかもしれません。以下ではその個人的経験の一部をご紹介したいと思います。
米国には,妻と私の他,当時小学校を卒業したばかりの娘と2年生を終えたところの息子も同行しました。娘も息子もほとんど英語を話すことができない状態での渡航でしたが,ボストン郊外のとある町の公立学校に通いました。学校以外でも英語に接する環境が必要だと思い,二人が日本で経験していたスポーツができる環境を探しました。外国人にとってはこの探すという作業も困難をきわめたのですが,しばらくして,娘はバスケットボール,息子はサッカーのチームに入りました。
練習の会場へは自動車での移動が必須でしたし,なにしろ親も米国でのいろいろなことを知らない(何を知らないかも知らない)わけですので,コーチやチームメートにわが子の英語力が稚拙であることなどを説明して,毎回の練習を見学していました。
練習を見ていて何がいちばんショックだったかというと,コーチが子どもたちを褒めまくることです。コーチだけでなく見学に来ている親が自分の子どもをべた褒めすることも珍しくありませんでした。さらにいえば,学校の先生たちも本当によく子どもたちを褒めていました。日本人の私から見れば甘やかしているようにしか思えないものでした。
しかし慣れとはおそろしいもので,当初は,娘の友人の親御さんから娘のプレーを褒められても「いやいやまだぜんぜんですよ」みたいな言い方をしていたのですが,「だよね,いいよね」みたいなものに変化し,そのことが結局親同士のコミュニケーションをスムーズにすることにも貢献しました。
次にショックだったことは,米国ではチームスポーツのメンバー交代が頻繁に行われていたことです。チームスポーツの場合,一度にプレーできる人数は限られます。サッカーは11人,野球は9人,バスケットボールは5人,のように。日本だとレギュラーと補欠の格差がかなり明瞭であることが多いと思うのですが,米国ではそうではありませんでした。つまり出場機会がかなり平等だということです。
学年が上がるにつれて平等でなくなっていく傾向にはありますが,「ベンチウォーマー」のような子どもは私が直接見たチームにはいませんでした。あとで現地の人に聞いたところ,地域の差もあるということですので一概にはいえなそうですが,チームの子どもたちに平等に出場機会を与えることが珍しいわけではない,ということだけで十分に驚きでした。
こうしたことに違和感を覚えたということは,自分が,米国のスポーツに対していかに「マッチョ」なイメージを持っていたか,ということでもありました(ステレオタイプですね)。
(後編に続きます)
(おみ・やすひろ)山梨大学教育人間科学部教授。1994年,東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中途退学。博士(心理学)。 グリフィス大学オーストラリア環境科学部 客員研究員(文部科学省在外研究員)などを経て現職。
主要著作に,The potential of the globalization of education in Japan: The Japanese style of school sports activities (Bukatsu).(Educational contexts and borders through a cultural lens: Looking inside, viewing outside. Springer, pp. 255-266, 2015年),Lives and relationships: Culture in transitions between social roles. Advances in cultural psychology.(Information Age Publishing, 2013年,共編)など。
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